天才の軌跡

現代を生きる時計師の最高峰、フランソワーポール・ジュルヌ。今年は、彼が自身のブランドを立ち上げて20周年のアニバーサリーに当たる。この20年間、彼がウォッチシーンに残してきたものは何だったのか。また、ブランド創立以前のキャリアが、現在の彼をどう形づくったのか。そして今後のビジョンは? ジュネーブのマニュファクチュールに彼を訪ね、天才の現在・過去・未来を検証する。

Photo Masahiro Goda Text Yasushi Matsuami

現代を生きる時計師の最高峰、フランソワーポール・ジュルヌ。今年は、彼が自身のブランドを立ち上げて20周年のアニバーサリーに当たる。この20年間、彼がウォッチシーンに残してきたものは何だったのか。また、ブランド創立以前のキャリアが、現在の彼をどう形づくったのか。そして今後のビジョンは? ジュネーブのマニュファクチュールに彼を訪ね、天才の現在・過去・未来を検証する。

  • ヴァガボンダージュⅠ、ヴァガボンダージュⅡ ヴァガボンダージュ8544;、ヴァガボンダージュⅡ
    (左)ヴァガボンダージュⅡ 2010年発表。1分間のルモントワール機構と連動させたデジタル式の時分表示を実現した。同機構は時計の心臓部であるテンプが振れる角度を安定させるため主ゼンマイから伝わるトルクを一定にする。
    (右)ヴァガボンダージュⅠ 2004年発表。オークションハウス、アンティコルムの30周年記念として、当初3本のみが製作され、翌年以降製品化された。スライディング・ディスクで時分を示す、独創的な機構を搭載。
  • ヴァガボンダージュⅢ ヴァガボンダージュⅢ
    ヴァガボンダージュⅢ 2017年発表。1秒間ルモントワールを応用し、6時位置にジャンピング式のデジタル秒表示を搭載した。時表示もジャンピング式。7年もの空白を経て生まれたⅡの発展形だ。左がローズゴールドケースで右がプラチナケース。
  • ヴァガボンダージュⅠ、ヴァガボンダージュⅡ
  • ヴァガボンダージュⅢ

ダニエルズとジュルヌ、天才時計師同士ならではの境地

着手から5年、25歳の若きフランス人時計師がトゥールビヨン搭載懐中時計を完成させたことは、好事家の間で大きな話題となり、彼のもとに注文が舞い込むようになる。その中に、ジョージ・ダニエルズ氏のコレクターとして知られるグシュウィント氏からの注文もあった。

「ルモントワール機構を搭載したモデルの注文でした。ダニエルズ氏はすでにこの機構を完成させていましたが、私はそれとは違うメカニズムでこの懐中時計を作り上げました」

しかしこの時計が、ダニエルズ氏とグシュウィント氏との間に、ちょっとした不協和音をもたらすことになる。

「時計に、製作者である私の名前を入れないでくれという注文だったんです。グシュウィント氏は、完成した懐中時計を他のコレクターたちにしばしば披露していましたが、ダニエルズ氏には隠していた。ところが徐々に話題になり、ダニエルズ氏の耳にも入る。しかし誰が作ったのか分からない。それがダニエルズ氏をいらだたせてしまったようなんです。当時のその経緯を含め、なぜ私があなたに感謝しなければならないか、ということを綴った手紙を、ダニエルズ氏が亡くなる前年、2010年にロンドンでお目にかかった際に手渡しました。確か1984年にサザビーズで会った時が最初だと思うのですが、以来30年弱のお付き合いでした。ダニエルズ氏から、娘を紹介するから結婚しないか、なんて言われたこともありましたよ。すでに彼女がいたから断りましたが(笑)。ブレゲがマリー・アントワネットの依頼で作った懐中時計NO.160を二人で再現しようか、と話したこともありましたが、その時、ダニエルズ氏はこう言っていました。『すでに存在していたものを作り直すより、新しい喜びを見いだせるものを作るべきじゃないか』と。その言葉は深く心に残っていますね」

  • クロノメーター・レゾナンス クロノメーター・レゾナンス
    クロノメーター・レゾナンス 2000年発表。二つのテンプの共振現象を利用し、精度を高めるレゾナンス機構は、アンティード・ジャンヴィエやブレゲら、歴史的時計師が大型のクロックに導入したものだが、これを世界で初めて腕時計に搭載。F.P.ジュルヌのフラッグシップ的存在。 2020年にクロノメーター・レゾナンスが20周年を迎えることを祝し、2019年の1年間のみ生産される限定バージョン。左側のインダイヤルが24時間仕様となり、デュアルタイムとしても使える。手巻き、ケース径40mm、Ptケース×アリゲーターストラップ、10,108,800円。
  • サンティグラフ・スヴラン2 サンティグラフ・スヴラン2
    サンティグラフ・スヴラン2 2019年発表。100分の1秒計測が可能なクロノグラフ。10時位置に100分の1秒カウンター、2時位置に20秒で一周する秒カウンター、6時位置に10分までの分カウンターを搭載。2007年にファーストモデルが発表され、このRG仕様は今年登場。手巻き、ケース径44㎜、RGケース×RGブレスレット、9,849,600円。
  • クロノメーター・レゾナンス
  • サンティグラフ・スヴラン2

Invenit et Fecit(アンヴィニ・エ・フェシ)―発明し、製作した。

1999年のブランド創立以来、F.P.ジュルヌのブランドロゴの下に、この言葉が常に添えられている。

ウォッチメイキングの伝統にリスペクトを捧げながら、過去の模倣にとどまることなく、新たな喜びを見いだせる発明を付け加え、それを実現させる。このスピリットは、ブランド創立以前に培われていたものだったことが、このエピソードからも分かるだろう。

ブレゲからジョージ・ダニエルズへ、ジョージ・ダニエルズからフランソワ︲ポール・ジュルヌへ。天才だけが手繰り寄せることのできる特別な規範に則って、彼は未来に向けた時計を作り続けている。

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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