洞察が生む静かな驚き

石かわの料理は、石川秀樹氏の経験と美学が反映されている。そんな石川氏が今回スイカに合わせたのは、牛肉。思いもよらない組み合わせだが、まるで前々からあったような相性のよさを見せる。驚きと納得感のある、他にない一品を作ってくれた。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

石かわの料理は、石川秀樹氏の経験と美学が反映されている。そんな石川氏が今回スイカに合わせたのは、牛肉。思いもよらない組み合わせだが、まるで前々からあったような相性のよさを見せる。驚きと納得感のある、他にない一品を作ってくれた。

西瓜の料理、石かわ 石川秀樹氏
スイカと牛肉という、意外性いっぱいの組み合わせ。スイカには葛を打ち、炭火で表面を香ばしくあぶる。牛肉は生に近い状態。風味も食感も爽快なスイカ、旨みをたたえた柔らかい牛肉……これらが香ばしさをまといながら調和する。醤油味、白胡麻味の2種のあんが、それを引き立てる。

この料理で驚くのは、スイカと牛肉の相性のよさ。スイカの爽やかな甘さ、風味とシャキッっとした食感は、それとは対照的な、柔らかくなめらか、旨み豊かな牛肉と非常によく合う。スイカがまとう香ばしさが、この二つをつないでいるようだ。また、牛肉という主役を張ることが多い素材を用いながら、ここでは牛肉とスイカが釣り合うか、むしろスイカの方が強い存在感を発している。

なお、この料理を作るプロセス上のポイントは、「スイカ自体には火を入れず、表面のみに香ばしさをつける」点。スイカはカットしてから軽く乾燥させ、よくよく冷やしてから、葛を打ってあぶる。スイカ自体はごく冷たいので、表面の葛を色づくまで焼いても中のスイカはほぼ熱せられない。それで、スイカの食感やみずみずしさが保たれる。

決して奇をてらわない。それでいて、お客の驚きと満足感を引き出す。そんな料理を入れ込みながら、石かわのコースは形作られる。
ちなみに、石川氏はコースでは「主役のいない流れを意識しています」という。「うちのコースは、四番打者がいない。全員野球です。どれにもきちんとインパクトがあり、でも、スーッと終わっていく」
全員野球の一員として、チームになじみながら自分の働きを発揮する。そんなあり方を、この料理は実現している。

石かわ 石川秀樹氏

石川秀樹 いしかわ・ひでき
1965年、新潟県生まれ。高校卒業後、洋食器の卸問屋へ就職。85年に上京し、原宿の割烹「さくら」で日本料理の世界に入る。90年より青山「穂積」、乃木坂「神谷」などで修業後、埼玉や八重洲の割烹で料理長を務め、2003年に「石かわ」を開業。08 年に移転。09年には『ミシュランガイド東京』にて三つ星の評価を得る。姉妹店として08年「虎白」、09年「蓮」、20年「波濤」「NK」「愚直に」をオープン。

●石かわ
東京都新宿区神楽坂5-37
TEL 03-5225-0173
kagurazaka-ishikawa.co.jp

※『Nile’s NILE』2021年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
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