幸福を呼ぶ料理 前編

「麻布 かどわき」の門脇俊哉氏の料理は、「お客さまの喜びのため」を徹底することで生まれる。柔軟で時に異色、かつ格調を備え、そしてなによりも味で感動を呼び起こす。

Photo Satoru Seki  Text Izumi Shibata

「麻布 かどわき」の門脇俊哉氏の料理は、「お客さまの喜びのため」を徹底することで生まれる。柔軟で時に異色、かつ格調を備え、そしてなによりも味で感動を呼び起こす。

ただし、その後は決して順風満帆にはいかなかった。「28歳、東京でどんどん上り詰める気で満々だった時、すし店を営んでいた父親が借金を遺して58歳で急死。北海道に帰ることを余儀なくされたが、幸運にも店と家を買い取りたいという人が現れ、借金返済を成し遂げた。その後東京に戻り結婚、そして双子に恵まれ幸福な家庭を築いていたが、子供たちが3歳を迎える前に妻が癌で他界してしまう。
「子育てのために母が北海道から来てくれました。私は家族を養うために安定した仕事に就く必要があったので、試験を受けて東天紅グループの和食店に料理長として就職。500人ほど入る宴会場がある店を仕切っていました」

その後も大型店で働き、家族のため安定を第一に料理人生活を過ごしていたところ、偶然「越」の時の大将に遭遇。「お前、今いい顔しているから店をやれ」と言われた。同じ頃、茶道の師匠からも店を構えるべきとのアドバイスが。「借金を背負って失敗したら家族が路頭に迷うので、自分で店をやる選択肢は正直ありませんでした。ただお袋には一応意見を聞いたら、『小さい店だったらやればいいじゃない。それで潰れたらお前はどっちみちダメよ』って」
そんな時期、車を運転していたら後ろから軽くぶつけられるという出来事があった。「コン、とぶつかった瞬間、背中を押された気持ちになった。『これは店をやれということだな』と決心がついたのです」
なおこの時門脇氏は40歳。亡き妻に「40までには自分の店を持ちたい」と話していた年齢を迎えていた。

幸福を呼ぶ料理 後編へ続く

麻布 かどわき 門脇俊哉氏

門脇俊哉 かどわき・としや
1960年、北海道生まれ。六本木の高級割烹「越」に就職して料理の道へ。「つきじ植むら」湯島店、高輪茶寮店、「エスカイヤクラブ」新宿店、「鴨川」霞ヶ関店、東天紅系列の和食店「海燕亭」千葉スカイウインドウズ店で料理長を務めたのち、2000年に「麻布 かどわき」を独立開業。2006年に麻布内で移転。ミシュランガイド東京2020より三つ星。

●麻布 かどわき
東京都港区麻布十番2-7-2
TEL 03-5772-2553
azabukadowaki.com

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
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アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
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