こうした複雑機構以上に、今回印象的だったのは意匠の進化だ。ハイエンドピースに伝統的なイメージよりも、モダンさやカジュアルなルックを与えることが、一つのトレンドとなってきている。文字盤のカラーも、これまでにない淡い色調を、多層ラッカーや手作業による凝った仕上げで実現したものが目立った。複雑機構以上に意匠へ注力する傾向は、最近注目を集めているマイクロメゾンが発信源と筆者は見ているが、その影響がビッグメゾンへ広がり始めているように思う。
充実した新作の一方で、気になる数字がある。スイスの時計輸出額は昨年3月期と比較すると約16%の下落。これには経済の失速が著しい中国と香港の影響が大きい。中国、香港ともに40%以上の落ち込み。中国への依存度を高めてきた高級時計業界は大丈夫なのだろうか?
今回ジュネーブのほか、ミラノやパリへも足を延ばし、インド系の旅行者が急増している印象を持った。14億人以上という世界一の人口を抱えるインドは、経済も上げ潮だ。人口の1%を占める超富裕層が、国内の富の約40%を所有するという。時計業界にとっても、インドへの期待は大きいはずだ。
折しも、EFTA(欧州自由貿易連合)とインドとの間で3月10日に自由貿易協定が調印され、現在時計にかかる20%の関税を毎年段階的に引き下げ、7年以内に撤廃するという。高級時計界をインドが席巻する日が近づいているのかもしれない。

