生々しく、シンプルな美

東京藝術大学に在学中の若き画家、友沢こたお氏。個展では作品が即日完売するという、今もっとも勢いにのる作家だ。スライムをかけた顔をモチーフとする彼女の作品は、一度見たら忘れられない強さを持つ。その創作の原動力、背景、内面に迫る。

Text Izumi Shibata

東京藝術大学に在学中の若き画家、友沢こたお氏。個展では作品が即日完売するという、今もっとも勢いにのる作家だ。スライムをかけた顔をモチーフとする彼女の作品は、一度見たら忘れられない強さを持つ。その創作の原動力、背景、内面に迫る。

slime LXXI
友沢氏は1999年、フランス・ボルドー生まれ。5歳までパリで過ごす。現在、東京藝術大学美術学部絵画科油絵専攻の4年生。2019年に久米賞受賞、2021年に上野芸友賞受賞。今回紹介する「slime LXXI」は、初めて縦160cm超というサイズに挑戦した作品。「描きながら自分が大きな海に浮かんでいるような気分で、すごく気持ちよかったです。その気持ちいい感じが絵にそのまま出ていると思い、この絵はとてもお気に入りです」という。
©「slime LXXI」1620×1303(mm)

友沢こたお氏が一貫して描いているのは、スライムで覆われた顔。とろみのある物質が顔を覆いながら垂れ、肌に密着する。その生々しいモチーフに最初はドキッとするが、大きい画面に描かれたシンプルな形、力強い色彩、つややかで美しいスライムの表現が見る者の動揺を静めてくれる。その結果、まじまじと絵を見続けていたい気持ちになる。友沢氏の作品を前にすると、そんな感覚、感情のうねりを体験できる。

友沢氏の絵のモデルは自分自身か、長く大切にしている赤ちゃん人形だ。自作のスライムをかぶり、その写真を大量に撮り、キャンバスに油絵として表現する。この作風が生まれたのは大学に入学後、友沢氏が精神的に追い詰められていた時のことだという。

「友達が家に置いていったスライムを、気付いたら自分でかぶっていて、それは別に絵を描くためではなかったのですが、特殊で神秘的な経験で、粘膜レベルの記憶がずっと脳に張り付いていました」

友沢氏が画家になったのは自然な流れであった。漫画家、友沢ミミヨ氏の娘として、家でずっと絵を描いている母親と同様に、赤ん坊の時から生活の一部として絵を描き続けて現在に至るという。

また影響を受けたアーティストとして挙げるのは、画家のフランシス・ベーコン、映画監督のミヒャエル・ハネケ、漫画家の花輪和一。人間の内面にあるグロテスクさ、不可解さから目をそらさず、時に引かれ、オリジナルの表現に昇華させる作家たちだ。彼らの作品と共通する感覚や感情は、友沢氏の作品にも確実に息づいている。

そして友沢氏は、自身の作品の源泉は「悲しみや怒りや諦め」だと言う。しかし友沢氏はこうしたネガディブな感情を直接的に、あるいは誇張して描くのではなく、ニュートラルに向き合っているように見える。

「あまり難しく考えすぎないシンプルな自分でいるようにしています。その中で自然に生まれてくる異常なぬるみや、妙なノイズが自分の絵の持ち味かなと思います」

こうした気負わなさがあるからこそ、静かな説得力のある作品が生まれるのだろう。

今後、「気が遠くなるくらい大きいサイズの絵を描いてみたい」と、友沢氏。その時は誰も想像し得ない、しかし今までの彼女と確かにつながる作品を私たちは目にするに違いない。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
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