絵の記憶 第1回

絵画
「サンマキシム」 ポール・アイズピリ(1919~2016)
パリ生まれ。バスク人の血をひくフランス人画家。1951年には、若くしてベネチア・ビエンナーレでナショナル大賞を受賞。明るく穏やかな色調の作品には、自然と家族をこよなく愛する画家の心が生き生きと現れる。

フランスの夏は、7月14日のパリ祭を境に一気にバカンス気分が街中に溢れかえる。

開放的な陽射しの中、その昔、画家や文豪が集って芸術論を熱く語り交わしたと名高い「Deux Magots(ドゥ・マゴ)」でクロックムッシュを注文する。歩道沿いに陣取った小さなテーブルでちょっと遅い昼食の一口目を口に運んだとき、目の前の古い石畳の溝に、高くもないヒールに足を取られてよろめいた彼女と目が合った。

少しはにかんだような笑みが照れ隠しのような、それでいて悪戯っぽく目に映ったのが最初の印象。体勢を整えて画廊街へと足早に去ってしまった彼女―美咲が、美大でデッサンと奮闘していることを知ったのはしばらく経ってからのこと。エスプレッソで簡単な昼食を締めくくった後、彼女の後を追うようにセーヌ通り沿いの画廊へと足を運んだ。気になった展覧会がこの辺りの小さな画廊からの案内にあったことを思い出したのと、ポニーテールの悪戯っ子が気になったことも否めない。

絵画と女性

結局、美咲の長めのポニーテールの後ろ姿は見つけられなかった上に、期待した展覧会も数日前に右岸の大きな画廊で見たアイズピリ展にははるか及ばなかった。

美咲の不在と展覧会。ハズレ券2枚も、名作に触れればきっと大当りの気分に戻せるだろうとルーヴル美術館まで足を延ばす。モナリザに群がる観光客を避けてぶらぶらしていると、ルーヴルには珍しいルノワールの「読書する二人の少女」に出くわした。なんとなく後ろに束ねた髪の毛が美咲を思い起こさせた。

数日後、愉しく心が躍ったアイズピリ展がまた見たくなった。マティニヨン大通りに面した画廊の大きなガラス扉を開くと、凛とした空間の中、それぞれの作品から賑やかな笑い声が聞こえてきた気がした。ふと広い画廊の奥に目をやるとアイズピリのピエロに見入っている懐かしい姿が。真剣に向き合っているはずなのに笑顔に見えるのは美咲の本質か、アイズピリの絵筆が生み出す幻想か。未来の画家の卵に躊躇なく声を掛けてみたのは無論のことだ。

同じ空間で同じ時間を過ごすのであれば、出来るだけ明るく楽しく過ごしたい。美味しい食事に舌鼓を打つように、胸に響く音楽に耳を傾けるように、美しく心が温まる作品を身近に置いて鑑賞したいという単純な感性の法則に今、気が付いた。美咲のおかげか、アイズピリのおかげか。これからのバカンスはアイズピリの愛したコートダジュールで海を眺めるのか、バスクで美食に浸るのか、二人での愉しい日々が待ち受けているに違いない。

●ギャルリーためなが 
東京店 東京都中央区銀座7-5-4
大阪店 大阪市中央区城見1-4-1 ホテルニューオータニ大阪1F
パリ店 18av. Matignon, 75008 Paris,France 

※『Nile’s NILE』2017年8月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
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