京都食の値段その後

食語の心 第139回 柏井 壽

食語の心 第139回 柏井 壽

8年前は省き、22年前と今を比べてみると、「辻留」の花見弁当のように、さほど値上がりしていない店のほうが目につく。

いわば京都の郷土料理とも言える「いもぼう」の名店「いもぼう平野家本家」の「花御膳」は22年前が3000円で、今は3410円。値上げ率はわずか1割と少しだ。

京のぶぶ漬け伝説が、ただの戯れ話に過ぎないことを実感し、本当の京都の茶漬けを堪能できる「丸太町十二段家」の22年前の価格は1000円だったが、今は1500円と5割アップ。

あるいは精進料理。名刹「天龍寺」の直営店で人気の高い「篩月」の22年前の「雪」は3000円で、今は3800円だから、3割弱の値上げということになる。

日本料理というジャンルのなかで、割烹店の値上げが突出していることが明白になった。それは本コラムで8年前に書いた内容とおなじなのだが、この8年のあいだに、さらに拍車が掛かっているように感じる。

では、ほかの京都の食の価格はどうだろうか。

手軽でありながら、京都らしい味わいの「祇園おかる」のたぬきうどん。きつねの餡かけバージョンだが、22年前は700円で、今は960円と3割強の値上げに過ぎない。

断っておくが例示した店はどこも、22年前と変わらぬ人気を誇っている。けっして置いて行かれた店ではないのだ。

たとえば「上賀茂神社」の門前菓子で名高い「神馬堂」の「やきもち」は、早々に売り切れるほどの人気和菓子だが、22年前に120円だったのが、今は130円と1割にも満たない値上げ率なのである。

こうして比べてみると、ほとんどの京都の食は、22年間で5割以下しか値上げしていないことが分かる。いっぽうで人気割烹だけは3倍に値上げしている。8年前にも分析を試みたが、京都に限らず、食の価格に大きな格差が生じ、それが年々顕著になっている証しだろうと思う。

柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。

※『Nile’s NILE』2025年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
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アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
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