転売と特別価格

食語の心 第134回 柏井 壽

食語の心 第134回 柏井 壽

つまりはコンサートや舞台と似た意味合いを持っているのだが、それらとおなじような、席のオークションが行われたとして、多くが納得できるのだろうか。

たとえばコンサートのS席が1万円だとして、そのうちの何席かをオークションに掛け、5万円で落札するというようなことが世間に通用するだろうか。

とどまるところを知らないグルメブームの行き着く果ては、かくも無様な姿をさらけ出すのか。

それもこれも、やたらと煽(あお)り立てるインフルエンサーや、自称食通たちと、それに便乗するメディアのせいだ。

金さえ出せばなんとかなる、という風潮が広がらないことを祈るばかりだが、残念ながらじわじわとその波は広がっている。

行列が絶えないことで知られる人気ラーメン店が、並ばなくても食べられる席料を売り出したら、購入希望者が殺到したというニュースが流れた。

そのうちスーパーマーケットでも、レジに並ばなくてもいいチケットが売り出されるかもしれない。今はジョークで済ませても、本当にそんな事態になっても不思議ではない、という風潮だ。

人気に便乗してひと儲けしようと企(たくら)む輩はどこにでもいるようで、京都の人気寺院でも似たような話が出てきている。

紅葉の名所としても知られる寺院が、閉門後に特別拝観と称して、高額な拝観料を支払う参拝客だけを受け入れ、物議をかもした。茶菓の接待付きで通常の10倍を超える拝観料が妥当なのか。賛否両論渦巻くなか、追随する寺院や施設が出てきたのは、お墨付きを得たということなのだろう。

金さえ払えば、という風潮に宗教界までもが染まってしまったのは、なんとも嘆かわしいばかりだが、その先鞭(せんべん)をつけた飲食店業界では、すでにバブル崩壊が始まっているらしい。

予約困難店や行列店が、必ずしもおいしいとは限らないということに、ようやく気が付きはじめたからだという。今後の動向を注視したい。

柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。

※『Nile’s NILE』2025年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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