疑うということ

食語の心 第130回 柏井 壽

食語の心 第130回 柏井 壽

いっぽうで冷静に判断し、それなりにしか評価しないSNS投稿者も見かける。ではなぜ前後者で意見が分かれたかと言えば、それは料理を作る経験値の違いだろうと思う。

後者のSNSでは、「スーパーの鰻売り場で、『当社指定の厳格な基準を満たした養殖場で育てた鰻』でも、中国産なら半値に近いのだから、それとおなじだ」

とも書いてあった。まったくもってその通りだと思う。外食も好きだが、料理を作ることも好きなので、よく買い物に行く。売り場で見れば、国産と外国産の価格差は歴然としている。急拡大しているチェーン店は、きっとこういう鰻を使って、職人要らずの調理器具を駆使しているに違いない、と容易に想像できるのだ。

逆に言えば、国産鰻を使ってこの価格で提供するのは無理だ、ということも分かる。まず疑問に思うことで、イメージ戦略に乗せられることは防げる。危ういなと思うのは、SNSなどを通じて、誤った情報がいともたやすく拡散される今の風潮だ。

素人ならやむを得ないとも思うが、プロのグルメライターなどでも、しばしば勘違い情報を流し、一般人はそれを信じてしまうのは、看過できない。どれほど外食経験が豊富でも、ふだんから料理を作り、買い物をする習慣のない人の言を信用しないようにしている。

その判断基準のひとつにしているのが数自慢だ。一年に何百軒食べ歩いているだの、一日に数軒ハシゴするなどと、外食を軒数や回数で自慢する人たちは、めったに料理も作らないだろうし、そのための買い物にも行かないだろう。となれば食材の価格や相場、産地による差など分かるわけがない。結果、店側の言い分をそのままうのみにし、情報を垂れ流してしまう結果を生む。それだけ外食経験の豊富な人が言うのだから、間違いはないだろうという思い込みこそ間違いなのだ。

まずは疑うこと。そんなに外食ばかりしていれば、日常の食の経験が乏しいのではないか、という疑問を持てば、そういう人たちの言をすべて信用することにはならないはずなのだが。メディアやプロが言ってるからといって、すぐに信用せず、疑問を持ってみる。そうすればほんとうのことがくっきりと見えてくる。

柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。

※『Nile’s NILE』2024年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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