調理という生命との対峙から生まれる思索

本の食べ時 第3回 君島佐和子

本の食べ時 第3回 君島佐和子

本の食べ時 第3回、君島佐和子、調理という生命との対峙から生まれる思索
『エスキスの料理―インスピレーションから創造する料理の考え方』
リオネル・ベカ著/誠文堂新光社/2021年12月刊/7,700円

著名なドキュメンタリー映画作家フレデリック・ワイズマン監督による『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』が8月に公開された。半世紀以上にわたり三つ星を保持する名店の営みを丹念に追ったこの作品に、音楽やナレーションはない。記録音のみの4時間という超長尺に一瞬ひるんだが、早々に映画館へ赴いたのは、トロワグロゆかりの料理人に魅力的な人物が多いからだった。その魅力の幾分かはかの地で養われたのではないか。それを確かめたくもあった。

考えてみれば、グランメゾンでのディナーなら3~4時間は優にかかる。ディナーの所要時間とほぼ同尺というわけである。そこで図らずも「料理とは時間の芸術」なのだと気付く。音楽や映画の鑑賞に時間が付いて回るのと同様、料理の鑑賞にも時間が伴う。料理を一連の作品として味わうには、作り手と食べ手が空間と時間を共有し、作り手の意図する流れを尊重せねばならない。相応の時間の尺が必要なのは言うまでもない。同時に、料理が卓上に届くまでにどれほどの時間と手間が費やされていることか。その意味でも時間の芸術と捉えられよう。厨房のみならず、自然を相手とする生産者の仕事、果ては世代や歴史まで、時間の堆積に目を向けなければ料理の真価は見えてこない。映画はそこを克明に描く。

私を映画館へと導いたトロワグロゆかりの一人が本書の著者、東京・銀座「エスキス」のエグゼクティブシェフ、リオネル・ベカである。コルシカに生まれ、マルセイユで育ち、料理界へ身を投じたのが20歳を過ぎてから。トロワグロが東京にレストランを開く際、シェフとして送り込まれた。2006年、30歳の時だ。12年にトロワグロを離れ、現職に。日本の気候、食材、人、文化を受け止めながら料理を作って計18年。すでにフランスでの料理歴を超えている。「日本という国は私の視点、仕事の仕方、考えを形にする手法のすべてを180度変えました」(前書きより)

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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