インバウンドで鮨職人の仕事が進化する!?

本の食べ時 第1回 君島佐和子

本の食べ時 第1回 君島佐和子

おまかせとおつまみが覇権を広げると同時に進行したのが赤酢の復権だという。ミツカンの高取順氏との対談を交えて展開される「第2章 赤酢のシャリを考える」は、この10年のトピックがタネよりシャリにあると印象付けている。巻頭のカラーグラビアを飾る10店のシャリ一覧(色の違いがくっきり)が興味深い。

本来、江戸前鮨は赤酢が相場、白いシャリの普及は戦後という。つまみ比率上昇の昨今、おまかせコースの後半をトーンダウンさせないため、個性の強い赤酢が再浮上したと早川氏は説く。酢のブレンドを変えて数種用意し、魚に合わせて使い分ける店や、1貫ごとにシャリの温度を調節する店もあるらしい。ネタとシャリ、たった2パーツの超シンプル構成はそのままに、各パーツの中身を掘り下げて進化をもくろむアプローチには、ミニマムの中の最大可能性を掘り起こそうとする新時代の職人魂も感じる。

ところで、「寿司といえば、富山」というフレーズを耳にしたことはおありだろうか。有数の米どころにして豊かな漁場を持つ富山県が進めるブランディング施策だ。6月上旬、メディアを招いてキックオフイベントを実施。さまざまな鮨が披露される中、富山市の飲食店「GEJO」の店主・下條貴大氏の握りは、新時代の鮨の全国拡大を実証するに十分だった。富山湾岩瀬浜で揚がったノドグロは、昆布締めにして炙り、シーバスリーガルの香りを付けた煮切り醤油 で。富山湾産80キロの氷見本マグロは2日熟成させた後、2年寝かせた「満寿泉純米大吟醸寿Platina」の酒粕と煮切り醤油でヅケに。シャリは、砺波平野のコシヒカリに宮津の飯尾醸造製赤酢と奥能登の揚げ浜塩田の塩を使い、利尻昆布で香りづけ。もう一種、アイガモ農法のイセヒカリと飯尾醸造の純米酢による白いシャリも用意されていた。

最終章は「おまかせ1万8千円以下で食べられる現代の名店」、見出し通りの実用ガイドである。その最後に紹介されるのが人形町「㐂寿司」。何を食べたい、どう食べたいを伝えて握ってもらう、昔ながらの流儀の老舗だ。新時代を迎える前からの鮨好きにお気に入りの店を尋ねてこの名が挙がらなかったことはない。本書にあとがきはなく、あえて「㐂寿司」で締めくくったところに、著者の本意を見るような気がする。

君島佐和子 きみじま・さわこ
フードジャーナリスト。2005年に料理通信社を立ち上げ、06年、国内外の食の最前線の情報を独自の視点で提示するクリエイティブフードマガジン『料理通信』を創刊。編集長を経て17年7月からは編集主幹を務めた(20年末で休刊)。辻静雄食文化賞専門技術者賞選考委員。立命館大学食マネジメント学部で「食とジャーナリズム」の講義を担当。著書に『外食2.0』(朝日出版社)。

※『Nile’s NILE』2024年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
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