シャネルがもたらす新しい創造性の果実

腕時計における不朽の価値とは? ミュージシャン兼ウォッチジャーナリストのまつあみ靖が、ハイウォッチメイキングの世界をナビゲートする連載第9回。自社ファクトリーの拡充だけでなく、優れたサプライヤーとの提携を進め、ウォッチメイキングの充実を図るシャネルならではのクリエーションの「魔法」に迫る。

腕時計における不朽の価値とは? ミュージシャン兼ウォッチジャーナリストのまつあみ靖が、ハイウォッチメイキングの世界をナビゲートする連載第9回。自社ファクトリーの拡充だけでなく、優れたサプライヤーとの提携を進め、ウォッチメイキングの充実を図るシャネルならではのクリエーションの「魔法」に迫る。

  • ムッシュー ドゥ シャネル スーパーレッジェーラムッシュー ドゥ シャネル スーパーレッジェーラ
    ジャンピングアワーとレトログラードミニッツを備えた自社製「キャリバー 1」を搭載。1950年代のレーシングカーの超軽量ボディとアルミニウム製シャシを着想源とするスポーティーな世界観を具現化。「ムッシュー ドゥ シャネル スーパーレッジェーラ」手巻き、ケース径42mm、高耐性マットセラミック+SSケース×ナイロンストラップ、3気圧防水、5,896,000円。
  • マドモアゼル プリヴェ ピンクッションマドモアゼル プリヴェ ピンクッション
    お針子の必需品であるピンクッション(針刺し)からのインスピレーションによってデザインされた新作5モデルの中の一つ。ダイヤルはF.P.ジュルヌが所有する文字盤アトリエ、カドラニエ・ジュネーブ製。手彫金の上にグランフーエナメルを施し、デカール(転写)技法を幾度も丁寧に重ね繊細なカメリアのレース模様を描き、パールとダイヤモンドをあしらった。「マドモアゼル プリヴェ ピンクッション」(レース モチーフ)クォーツ、ケース径55mm、YGケース×グログラン織ブレスレット、3気圧防水、世界限定20本、24,310,000円。
  • アルノー・シャスタンアルノー・シャスタン
    シャネル ウォッチメイキング クリエイション スタジオ ディレクターのアルノー・シャスタン。シャネルのタイムピースデザインの要となる人物。2013年5月に現職に就任し、ジュネーブ ウォッチグランプリ部門賞を3度受賞。「何も変えずに、新しく生まれ変わる」というコンセプトよる「J12」のリニューアルも注目を集めた。
  • ムッシュー ドゥ シャネル スーパーレッジェーラ
  • マドモアゼル プリヴェ ピンクッション
  • アルノー・シャスタン

ローマン・ゴティエについては回を改めて触れたいが、今、世界のハイエンドコレクターが最も注目するブランドの一つであることは間違いない。シャネルとの提携関係により、生産体制を充実させたことも、名声を後押ししたかもしれない。

ローマン・ゴティエ以外にも、シャネルはマルセイユ出身の辣腕独立時計師フランソワ・ポール・ジュルヌが率いるモントル ジュルヌ社にも資本参加している。フランスのハイレベルなもの作りを支援しようとしている印象もあるが、投資先の名前や主体性、創造性を阻害せず、お互いをウィンウィンな関係に導くのがシャネル流という評価もある。そうでなければ、独立性に強いこだわりを持つジュルヌが、資本参加を受け入れることはなかっただろう。

新作エキシビション、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブに先駆けてこの1月に発表された新コレクション「マドモアゼル プリヴェ ピンクッション」5作のうちの2モデルで、F.P.ジュルヌが所有する文字盤アトリエ、カドラニエ・ジュネーブが手掛けた文字盤が採用された。ガブリエル・シャネルがアトリエで常に身に着けていたピンクッション(針刺し)をインスピレーションソースとするのもので、ハンドエングレーブ、エナメル、デカールと呼ばれる転写技術などを駆使した工芸性の高さが見事だ。若き日のジュルヌは「自分の興味の対象は機構であって、外装は自ら手をかけたくない」旨の発言をしていたことがあったが、今や傘下の文字盤アトリエの技術水準の高さには目を見張らしめるものがある。

19年にリニューアルされた「J12」には、新自動巻きムーブメント「キャリバー 12.1」が採用された。このキャリバーはシャネルがデザインしたものであるが、製造はロレックスグループのチューダーが16年に設立した新興ムーブメントサプライヤー、ケニッシ社が手掛けている。シャネルは、このケニッシ社にも資本参加を果たしている。

世の中には投資家の意向に左右され、方向性を見失う企業がままある。しかしシャネル型の資本参加は、それとは大きく趣を異にする。提携先とともに開発・クリエイションを磨き上げ、完成度を高めていく。そんな望ましい関係性の構築が続く限り、シャネルのタイムピースは魅力を放ち続けるに違いない。

まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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