ニッポンでモノが売れない本当の理由

時代を読む 第113回 原田武夫

時代を読む 第113回 原田武夫

「異次元緩和」の名の下、我が国の中央銀行である日本銀行が量的緩和を開始してからすでに久しい。その結果、カネが世間であふれ始めており、モノの値段が上がり始めている。インフレーション、である。ところがモノが売れない。サービスも思っていたほどには売れない。だから政府は「ドーピング」よろしく、国民による物見遊山の旅行のための代金を一部肩代わりし始めている。

しかしこれが我が国の国民経済の抜本的な立て直しのために貢献するのかというと、そうはならないというのが衆目一致したところなのではないかと思う。その意味で我が国は明らかに停滞し続けている。

それでもなお、我が国を立て直すとすれば何が必要なのだろうか?—そう考える時、私の脳裏に浮かび上がることが一つある。それは「忖度(そんたく)する側」と「忖度される側」の間の関係性を再構築することだ。

「忖度」というとどうしても厳しい、不自由な上下関係というイメージがある。しかしそうした固定観念は間違っている。なぜならば「忖度」の基本は「思いやり」であり、かつそこでは「相手を慈しむ気持ち」が必須だからだ。例えば店舗での販売のシーンを考えてみよう。

そこにふらりと見込み客がやって来る。その客をとらえてしっかりとクロージング、すなわち購入にまで持ち込むことが出来れば当然良いわけであるが、ここで当該店舗の販売員が最初に何を語りかけるのかで全ての勝負が決まってしまうことをご存じだろうか。

例えば衣服を扱っている店舗だと仮定しよう。ある店員はこう語りかける。「どういったシーンでお召しになられるお洋服をお探しですか?」もう一人の別の店員はこう語りかける。「今、大変お安くなっておりますよ。こちらの商品は普段の30パーセント引きです」

どちらも正解のように聞こえる。しかし実際には後者だと失注、すなわち客を逃してしまう可能性が高い。「一般には30パーセント以上の割引があると多くの消費者は購入する」というセオリーを守っているのに、である。

なぜか。その理由は簡単だ。前者の語り口の場合、「買わない」というオプションはなく、特定のシーンでの着用について、言い方は悪いが「共謀」していこうという流れが出来上がってくるからだ。とはいえ、どのシーンでの着用がなされるのか分からないので率直に聞いてみる、というわけなのである。その結果として具体的な着用シーンが分かれば、おのずから「忖度」の精度が上がってくる。一つ、また一つと条件を絞り込むことにより最後はクロージングできることになる、というわけなのだ。
 
モノが売れないのは実はこの「忖度する側」と「忖度される側」の間の人間関係を、口頭かつリアルのコミュニケーションで行うというシーンが、特に若い世代を中心にほぼなくなりつつあることによるというのが私の考えだ。世間ではインターネットによる販売がほとんど全ての商品について行われているが、より的確なニーズに応えようと人工知能(AI)が毎回、非常に正確な計算に基づき、推奨(recommendation)をしている。

その結果、「忖度」を今示したようなプロセスで行うという非常に単純だが、しかしそれを知らないと前に進めない事実を知らないまま、とりわけ若い世代は子供のころから育ってきてしまっているのである。確かに今、カネはあるところにはある。しかしそれが行き場を失っているのは人工知能(AI)が推奨しなければ一体何を自分が欲しがっているのかを自己認識出来ない客と、そもそもそれを「忖度」と「基本的な話術」とで引き出すことの出来ない販売員との間で寒々しいエアポケットが生じてしまっているからなのである。

ここにもまた一つ、DX(デジタルトランスフォーメーション)の弊害がある。もっと単純に、ヒューマンに、そしてシンプルに。ニッポン復活のカギは意外にそうした単純なところにあるように思えてならない今日この頃である。

原田武夫 はらだ・たけお 
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
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その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
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