チェーン店の味

食語の心 第59回 柏井 壽

食語の心 第59回 柏井 壽

食後の心 第59回

僕は決してグルメライターではないのだが、こういう仕事をしていると、いつもいつも美食ばかりを続けていると思われているようだ。

話の流れで、牛丼チェーンでどこの店が好きか、という話をすると、一様に驚かれる。
「え? グルメライターの柏井さんでも、牛丼を食べることなんてあるんですか?」
当たり前でしょうが。少しばかりの憤慨を表しながら、そう答える。

多くの料理評論家だとか、グルメブロガーたちはきっと牛丼などは食べないのだろうが、僕はただの食いしん坊だから、チェーン店だろうが何だろうが、美味しいと思えば躊躇なく食べに行く。とりわけ牛丼チェーンなどは、その日の気分に応じて、どの店に行くか、選び分けるくらい通じている。

安くて美味しければためらうことなど何もない。それは何もランチの牛丼に限ったことではない。ディナーだって美味しいチェーン店があって、その店が近くにあれば、おひとり晩ごはんをそこで摂ることも少なくないのである。

たとえば「サイゼリヤ」。イタリアンをメインにしたファミリーレストラン、という位置付けなのだと思うが、僕は、しばしばここをディナータイムに、ワインビストロ遣いしている。

「え? サイゼリヤのワインって、安いだけのものでしょ?」

グルメ雑誌の編集者でも、この程度の認識しか持っていないのは、何とも寂しい限り。硬直した思考の持ち主は、端からチェーン店を、安かろう、まずかろうとして、排除してしまっている。実にもったいないことだと思う。

さて、その「サイゼリヤ」。僕の大好きなお値打ちスパークリングワインが置いてあることは、ほとんど知られていない。
すべての店舗ではなく、ホームページの店舗リストの中で、ワインのアイコンが付いた店だけだそうだが、格安のボトルを置いている店があり、そこだと、ちゃんとしたボトルワインを酒屋に近い価格で提供している。

たとえばスパークリングワイン。「ブリュ・7・ノーテ」のフルボトルが1,620円という安価で飲めるのだ。このスプマンテは、とある都内のビストロで6,300円という価格が付いていたことを考えれば、激安と言ってもいいだろう。

スケールメリットという言葉があるように、これはチェーン店だからこその値付けだ。
飲食チェーンといえば、どうしてもマイナスのイメージが先行してしまうものだが、いいことだってあるわけで、大量に仕入れることで安く提供できるのである。あるいはお値打ちワインは、採算を度外視した、顧客サービスなのかもしれない。

アヤシゲなものではなく、至極真っ当なワインを、適正価格で提供する店だから、当然のことながら、料理も然りである。僕が「サイゼリヤ」で必ずと言っていいほど、毎回オーダーするエスカルゴなどはその典型である。

モダンスパニッシュは持て囃されても、クラシックなフレンチは人気を呼ばないのか、今どきのフレンチでエスカルゴをグランドメニューに載せている店はめったに見かけることはない。フレンチと呼ばず、フランス料理店と言っていたころは、必ずエスカルゴはあったと記憶するのだが。
なので僕はエスカルゴを食べたくなると、「サイゼリヤ」を目指すのである。

わが京都においては、僕が定宿にしている「からすま京都ホテル」のすぐ近く。烏丸仏光寺(からすまぶっこうじ)にある「サイゼリヤ」がワイン充実店なのだから、なんともありがたい限り。

まずはいつものスパークリングワインを頼み、セロリのピクルスとエスカルゴをオーダー。
エスカルゴのソースが余ったところでガーリックトーストを頼み、ソースを絡ませながら食べる。
揚げ物はポップコーンシュリンプ。量もたっぷりなので、ひとり飲みだと、このあたりでほぼほぼ満足。〆(しめ)はたいていミラノ風ドリアかパスタだ。後者が悩ましいのは分量が多いこと。残すのは申し訳ないと思うので、無理して食べてしまう。

満足、満腹して、さてお勘定は。
割烹や寿司屋のように、ドキドキする必要はまったくない。テーブルに置かれたレシートは絶えず更新され、支払い額は一目瞭然なのだから。

侮るなかれチェーン店!

柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業後、京都市北区に歯科医院を開業。生粋の京都人であり、かつ食通でもあることから京都案内本を多数執筆。テレビ番組や雑誌の京都特集でも監修を務める。小説『鴨川食堂』(小学館)はNHKでテレビドラマ化され続編も好評刊行中。『グルメぎらい』(光文社新書)、『京都の路地裏』(幻冬舎新書)、『憂食論 歪みきった日本の食を斬る!』(講談社)など著書多数。

※『Nile’s NILE』2018年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
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