究極の目標としての「日本人」の淘汰?

時代を読む-第78回 原田武夫

時代を読む-第78回 原田武夫

歩く男

世間にはいくつかの「奇譚(きたん)」がある。その一つが沼正三の手による『家畜人ヤプー』だ。読者から見て、あきらかに「日本人に違いない」としか思えない民族「ヤプー」が異民族である白人たちによって奴隷、いや動物扱いされているというおぞましい作品である。熱心な読書家である方々の中には、あるいは手にとって読んでみたことのある方もいらっしゃるのではないかと思う。

「所詮(しょせん)あれは空想科学小説に過ぎない。現実ではあんなことはあり得ない」

そう思われているかもしれない。しかし、我が国において、目の前で繰り広げられる現実を見ると、決してそうではないことに気づくこともまた、事実なのだ。そして、その「現場」は、他ならぬ私たちの仕事場であり、同時に家庭である。

仕事場における現実で決定打となっているのが、ヒト不足だ。

もっとも単に人数がいれば、よいというわけではない。組織を維持するために必要な要式行為に完全に習熟しつつも、同時にクリエーティブであり、自らのアイデアを、数多くの関係者を巻き込みながら実現していくという意味でのリーダーシップをもっている存在。それがヒトだ。そうしたヒトが全くと言っていいほど、我が国の企業現場では、いなくなっているのである。

少子高齢化のためではないと私は見ている。「平成バブル崩壊」の結果、各企業が採用枠を激減させ、いわゆる「就職氷河期」が発生したわけであるが、この時、直撃弾を受けた世代が今徐々にミドルマネジャーで脂ののる年代に差し掛かりつつある。しかし、何せ人数が少ないため、企業内部ではマルチタスクであり、同時にプレイングマネジャーであるのが当然であるのも、この世代なのだ。その結果、およそ後輩の指導などできないのが日常であり、そうした中で若い世代は職場において完全に「放置」されるようになってしまっている。

放置されても意識の高い一部の者たちは、自力で「在るべき姿」を求めて、はい上がろうとするかもしれない。しかし、今や企業現場におけるキャリアの階梯は、完全に崩壊しているのだ。「このポストでこのヒトに仕えていれば自分もやがてここまでは行ける」といったキャリアパスが全く見えなくなる中、若年労働者たちは学生の時分に「とにかく一人前であるふりをすること」を仕込まれていく。

その結果、異常なまでに肥大化したプライドを持ったまま職場へとぶち込まれ、しかも優しく教えてくれる先輩すらいない中で巨大な「営業課題」をたいていの場合には割り振られ、それが未達であるたびに怒号の嵐にさらされることになるのである。

ここで待ち構えている選択肢は、二つに一つだ。一つ目は「第二新卒」として素早く転職するというもの。しかし、これであっても行った先の企業でも全く同じなのであって、いや、むしろ状況は徐々にひどくなっていることに気づくのである。二つ目は「メンタルが……」といってうつ病になってしまうこと。だが、ここで投薬されるや否や、治るどころか、ますます症状がひどくなる場合がままあるのだ。結果、社会人として復帰することはできず、「たまに気分が良い時にだけ娑婆で簡単な仕事をする」か、あるいは女性ならば最悪の場合、「春を売る」といった最大限の自虐行為に走る者すら出てくる。いずれにせよ結果は同じなのであって、こうした悲惨な状況であってもなお、サバイバルできるごく一部の若者たちを除き、今、「日本人」の若者たちは、根こそぎ淘汰されてしまっているのが現実なのである。

読者にはここでぜひ、「問題の根源」に立ち返っていただきたいのだ。なぜ、こんなことになってしまったのか。

その元凶は、他ならぬあの忌まわしい「平成バブル崩壊」なのだ。また、そもそもなぜに我が国の経済がいきなり「平成バブル」になったのかと言えば、急激な円高ドル安を米欧主導で決めた「プラザ合意」があったわけであり、かつそれに至るまでの国際金融の流れがあったのである。そこで我が国のリーダーシップは、あきらかに受け身であり、同時にあきらかに海の向こうから仕掛けられていた。

「日本人が本当に家畜人『ヤプー』になる日」は、このままでは近くなるばかりではないか。目の前で繰り広げられる日常の現実を見て、そう思わざるを得ないのは私だけだろうか。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

真のラグジュアリーとは何か

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