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追悼・坂本龍一

2023年3月28日に坂本龍一さんが亡くなったという知らせが届いた。音楽、映画、執筆、社会活動……さまざまな分野で類まれなる才能を発揮してきた。YMO結成当時から坂本さんの身近にいた雑誌編集者・根本恒夫さんが、彼の記憶をたどる。

Photo Masahito Goda  Text Tsuneo Nemoto

2023年3月28日に坂本龍一さんが亡くなったという知らせが届いた。音楽、映画、執筆、社会活動……さまざまな分野で類まれなる才能を発揮してきた。YMO結成当時から坂本さんの身近にいた雑誌編集者・根本恒夫さんが、彼の記憶をたどる。

「The SCOOP!」の企画では後半にネタバレページも用意。悪戯好きの関係者たちの仲の良さまで伝わってくる
「The SCOOP!」の企画では後半にネタバレページも用意。坂本を始め、悪戯好きの関係者たちの仲の良さまで伝わるような誌面である。

細野晴臣と横尾忠則が対談し、アルバム『COUHIN MOON』ができ、さらにYMOが結成されたころから、彼らのことは知っていたが、本当に仲良くなったのは、日本メディアとしては単独取材となるL.A.のグリークシアター公演(79年8月)と、3週間のヨーロッパツアーに同行した第2次世界ツアー(80年10月〜)以来である。

坂本龍一と矢野顕子が初めて仲良くなったのがグリークシアター公演であり、ひそかに大騒ぎするスタッフの脇にいた唯一のメディアが私だった。が、第2次世界ツアーのヨーロッパでの二人の関係は最悪で、坂本は痩せ細り、矢野は楽屋に貼ってあったYMOのポスターにマジックで×印をつけまくり「YMOのバカヤロー!」と言っていた。その写真は写真集『OMIYAGE』に掲載したのだが、後にYMO再結成アルバム『テクノドン』発売時に使った「ノットYMO」のロゴは、この写真を参考に作られたのである。

ヨーロッパのライブ会場の楽屋に貼ってあったYMOのポスターに×印をつけたのは、第2次世界ツアーに参加していた矢野顕子。後に「ノットYMO」のロゴを作る際の参考になったとか
ヨーロッパのライブ会場の楽屋に貼ってあったYMOのポスターに×印をつけたのは、第2次世界ツアーに参加していた矢野顕子。後に「ノットYMO」のロゴを作る際の参考になったとか。

ヨーロッパツアーは、長距離移動、リハーサル、それぞれ全く環境の違う会場でのライブ、パーティー、その合間に理解度の低いメディアによる取材や撮影が入ってくるという過酷なものであり、YMOメンバーは懸命にそれに耐えている様子だった(気楽な取材者である私は、ワインばかり飲んでいたのだが……)。

さすがにつらそうな坂本に声をかけ聞いてみたことがある。
「よく、こんな厳しい毎日耐えられますね? 大丈夫ですか?」

坂本の答えはこうだった。
「大丈夫ですよ。何も考えない練習をしてますから」

そう言われた時はあまり気にならなかったが、その30年後、禅修行を始めた私は、坂本のこの言葉をしきりに思い出すようになった。
「何も考えない練習」とは坐禅(ざぜん)そのものであり、最初にぶち当たるのが「何も考えないようにしようと、考えてしまうこと」から抜け出せなくなることである。「何も考えない練習」とは、坐禅では非思量と呼ばれ、坐禅の玄旨であり、入り口であり出口なのだ。坂本はYMO時代、細野の宗教性を嫌っていたが、自身が宗教ではない宗教性を身につけていたことは確かだろう。

2020年にがんが再発し、6度の手術を受けた2年後、坂本はNHKの『MUSIC SPECIAL』でピアノソロを撮りだめし、生涯の最高傑作となる作品を生み出した。この仕事は、何らかの宗教的バックボーンがなければ、到底やり遂げられなかっただろう。

第2次世界ツアーはアメリカに移った途端、霧が晴れたように状況が変わり、メンバーは完全に釈放され、教授とアッコちゃんも1年前のようなアツアツ状態に戻った。しかし実は、”散開”、再結成を経てもメンバーYMOという現象から解放されることはなかった。真に解放されたのは、細野と坂本の和解を経た2010年代になってからではなかろうか。

坂本は早熟の天才だった。音楽では『メリークリスマス・ミスター・ローレンス』、書籍では『音を視る、時を聴く 哲学講義』が、彼のピークだったと私は思う(NHK『MUSIC SPECIAL』を除き)。後者は、東大教授で日本哲学界最後の重鎮、故・大森荘蔵との対談集で、当時の坂本は弱冠30歳・哲学最大の未解決問題であり、哲学的な施策によっては解決不能であるかもしれない問題、その核心に日常の言葉で迫る、最重要な哲学入門書だと思われる。その問題とは、例えば、”今・現在”とは何かということである。それは点ではなく(点であるとすれば、今、音を聞くという知覚が成り立たなくなってしまう)、幅をもったものに違いないのだが、その幅とはどんなものなのか? 坂本はこの時点で、哲学最大の問題の所在に気付いており、最後には大哲学者に「(哲学に)これで正解というのはないでしょうね」とまで言わしめている。

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真のラグジュアリーとは何か

真のラグジュアリーとは何か

ラグジュアリーの定義が、音を立てて変わりゆく時代にあっても、最高峰のプロダクトを手にし、その圧倒的な美しさに触れる高揚感が、人生を鮮やかに彩る原動力であることを、私たちは知っています。
物質的な豊かさが、依然として私たちの精神を支える強靭な基盤であることに、言を俟ちません。
真の贅沢はそこから始まります。
アルゴリズムが弾き出す「正解」を疑い、自らの審美眼と直感で未踏の価値を切り拓く。
その「知的冒険」こそが、グローバリズム崩壊後の世界に残された、最後のラグジュアリーではないかと考えます。
Nile's NILE Digitalは、物質と精神、伝統と革新、都市の快楽と野生の回復――この相反する要素を「アンビバレンス」として愉しむ、選ばれた冒険者たちのためのプラットフォーム。
混沌を優雅にサバイブするための視座と、本物の体験へのアクセス権。
ここはまさにDesigning for the Exceptionalsの砦。
知的冒険者たちが集い、次なる航路を描くための、現代の港となります。

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